岡山地方裁判所 平成5年(行ウ)6号 判決 1994年4月20日
原告
株式会社新松之江(X)
右代表者代表取締役
源俊博
右訴訟代理人弁護士
山脇章成
井本昌弘
安倉孝弘
被告
岡山県公安委員会(Y)
右代表者委員長
刈田與
右訴訟代理人弁護士
片山邦宏
右指定代理人
高瀬平藏
村上敦
大本工
本田信
竹内弘毅
石井和廣
理由
二 抗弁(本件処分の適法性)について。
1 抗弁1について。
(一) 〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。
原告は、昭和三七年一二月二一日、当時施行されていた風俗営業取締法(以下「旧法」という。)二条に基づく風俗営業許可(料理店)を得、風営法附則(昭和五九年法律第七六条)三条により、同法三条一項の許可を受けて風俗営業を営んでいる者とみなされるものである。原告旅館本館一階の宴会場において、平成四年一二月一二日、いわゆる広域暴力団山口組組長外約一二〇名による忘年会が行われた。このことを聞知した岡山県警察本部及び岡山西警察署は、右宴会場が料理店として風俗営業の許可を受けた場所であったので、営業実態の確認のため、立入り(同法三七条二項)を実施した。右警察署は、原告には、風俗営業所の構造、設備の無承認変更、従業員名簿の不備、風俗営業所名称の無届け変更の同法違反事実があると認知し、捜査したところ、次の(1)~(3)の同法違反事実が明らかになったと判断した。
被告は、原告に右法違反があり、著しく善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害し、若しくは少年の健全な育成に障害を及ぼすおそれがあるとし、原告に対し、平成五年二月一六日付けで、同法二六条一項、二項に基づき別紙記載の理由により本件処分をした。
(1) 風俗営業者は、増築・改築その他の行為により風俗営業所の構造又は設備の変更をしようとするときは、国家公安委員会規則で定めるところによりあらかじめ被告の承認をうけなければならない(同法九条一項)が原告は、右許可を受けていない。
原告旅館では、旧本館一階及び昇龍閣一階部分の宴会場を風俗営業の料理店とし、昇龍閣一階部分は、松、竹、梅の和風の三客室及び舞台の構造、設備をもった和風料理店として風俗営業所とする旨の承認を受けていた。
旧本館(内にあった風俗営業所)は、昭和六二年三月一九日に焼失した。原告は、昭和六三年三月中旬ころから平成元年二月上旬までの間に、右跡地に本館を新築しその一階に宴会場を設けると同時に、焼失を免れた昇龍閣一階の前記風俗営業所を真、善、美、愛の和風の四室及びカラオケバー「花蝶」という洋風の客室に改築した(別紙図面のとおり。)。
原告は、平成元年二月四日付けで、被告に対し、新築された本館一階の宴会場「四季の間」のうち、春水の間、夏雲の間、秋月の間、舞台の合計一九九・〇九平方メートルについて、風俗営業所とするため構造、設備の変更を申請し、同年三月一七日付けで承認を得た。しかし、昇龍閣一階の風俗営業所については構造、設備の変更申請をせず、平成四年一二月一五日に至るまで変更承認を受けることなく使用した。
(2) 風俗営業者は、国家公安委員会規則で定めるところにより、風俗営業所ごとに、従業員名簿を備え、これに当該営業に係る業務に従事する者の住所及び氏名その他総理府令で定める事項(性別、生年月日、本籍、業務内容)を記載しなければならない(同法三六条)。原告の従業員名簿には、性別及び従事する業務の内容に関する記載がなく、本籍については四名を除いて記載がなかった。
(3) 風俗営業者は、風俗営業所の名称を変更したときは、一〇日以内に、被告に、総理府令で定める事項を記載した届出書を提出しなければならない(同法九条三項)。原告は、平成元年二月一〇日ころに風俗営業所の名称を「新松之江」から「新松之江雅亭」に変更しながら、平成四年一二月一五日現在において届出書を被告に提出していなかった。
(二) 第二号営業の要件である接待とは、歓楽的雰囲気を醸し出す方法により客をもてなすことをいう(風営法二条三項)。
右接待は、相手を特定し、歓楽的雰囲気を醸し出す方法(単なる飲食行為に通常伴う役務の提供を超える程度の会話やサービス行為。営業者又は従業員等との会話やサービス等、慰安や歓楽を期待して来店する客に対し、その気持ちに応えるための営業者側の積極的な行為として、特定少数の客の近くで、継続して談笑の相手となり、酒類の飲食物を提供し、区画された場所で踊りを見せたり歌舞音曲を披露し、ほめそやし、遊戯等のような興趣を添える会話やサービス等をする。)によるが、客に接する行為(同法二二条三号)と区別され、また、いわゆるいかがわしい行為である必要はない。
(三) 〔証拠略〕によれば、原告旅館においては、本館一階の四季の間や昇龍閣(現在の名称は開花亭)一階の真、善、美、愛の各室を宴会に利用していたこと、右四室の広さは別紙図面のとおりであること、原告旅館では客の希望があれば芸妓、コンパニオンの派遣を受けていたこと、右四室での平成四年一一月一日から同年一二月一四日までの使用状況(客数、コンパニオン数等)は別紙のとおりであること、同年四月から同年一二月までの原告旅館における芸妓等の派遣受入状況は別紙のとおりであること(争いがない)、原告旅館では宴会のルーム係の従業員が一三名いること、コンパニオンは、宴会では料理のセットの手伝いのみならず、客の側で酒等の飲食物の提供や談笑の相手となり(宴会場が和室であるため客の横に座ることができる。)、時には客と一緒にカラオケを歌ったりゲームをしていたこと、昇龍閣一階のカラオケバー「花蝶」は、宴会の二次会にしばしば利用され、宴会に同席したコンパニオンが客に同伴して来店することが多く、そのような場合コンパニオンは、客の側で談笑したり酒等の飲食物を提供したりし、時には客と一緒に歌を歌うこともあることが認められる。
右事実によれば、原告旅館での料理店の営業は、客を接待する第二号営業に該当することは明らかである。
2 抗弁2について
(一) 公安委員会が、営業停止等の処分をするには、<1>法令若しくはこの法律に基づく条例の規定に違反した場合であって、かつ、<2>著しく善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害し、若しくは少年の健全な育成に障害を及ぼすおそれがあると認められることが必要である(風営法二六条一項)。右違反行為の対象になる法令は風営法に限られず、広く法令及び命令一般である。そして、風営法の目的(同法一条)及び公安委員会による風俗営業者に対する規制の実行性確保のために設けられた公安委員会の指示の制度(同法二五条)にも法令違反だけでなく本件公益要件が加えられていることに照らすと、違反行為が風営法違反の場合には、右<1>の違反行為自体が、<2>の要件に該当するというべきである。
右<2>が<1>の程度が著しいことを要求している趣旨は、法令違反行為に該当するような行為が繰り返される蓋然性が高い場合に限って、同法二五条に基づく公安委員会による指示の処分に比べて重いといえる同法二六条に基づく営業停止等の処分をしようとするものである。そして右蓋然性が高いか否かは、当該風俗営業者について、違法行為の重大性、悪質性、継続性、右業者の過去の違反行為等を総合考慮して判断すべきである。
(二) 原告には、前示のとおり、三件の風営法違反行為があるから、右<2>の要件に該当する。
〔証拠略〕によれば、原告は、すでに昇龍閣一階部分の改築が完了し、右部分の構造、設備の変更申請が可能な平成元年二月四日付けで、原告族館本館の四季の間の一部についてのみ構造、設備の変更申請をしたが、その際に添付した図面には、構造、設備変更前の昇龍閣一階部分が記載されていたこと、原告が昇龍閣一階のカラオケバー「花蝶」を平成二年ころ一室から二室に変更したが、右一室は風営法上、構造、設備の変更承認の要件を欠くものであったこと、原告は本件第一ないし第三理由の違反行為を少なくとも三年以上継続していたこと、原告は昭和四三年四月ころ、被告の承認を得ることなく風俗営業の許可を受けていた旧本館の一部の構造、設備を変更し、旧法により、同年七月一六日から同月二〇日までの五日間風俗営業の停止を命じられていること(争いがない。)が認められる。
右事実に、風営法が構造、設備について厳格な規制を採っている趣旨(風俗営業所は、その構造、設備によっては、賭博や売春、卑猥な行為等が行われ易い場所になりかねない。)に照らせば、原告に第二号営業としての営業をそのまま継続させて放置すれば、将来、<1>要件に該当するような行為が繰り返される蓋然性が高いと認められるから、本件処分に必要な右<2>要件は充足するというべきである。
3 抗弁3について。
〔証拠略〕によれば、本件第一理由がいう無承認変更の内容は、従前の和風の三客室及び舞台を、和風の四室及び洋風のカラオケバーに変更したことであること、他方、右変更後の和風の四室は取り外し可能な板戸で仕切られたものであり、客室の使用方法は変更前とほとんど変わっていないこと、原告が備え付けていた従業員名簿には、氏名、住所、生年月日はほぼ全員につき記載されていたこと、無届けの名称変更は、従前の名称に「雅亭」を加えたものにすぎないこと、原告は右名称変更を報道発表しており公開したものであることが認められる(本件処分は、原告が、警察署に対する誓約に反し、暴力団の宴会に場所を提供したことに対する処分との面を否定できないが、暴力団関係者に対する宴会場所の提供行為は、そのこと自体違法とはいえない。本件処分の程度は、本件第一ないし第三違反行為や原告の処分歴等具体的な違法行為に照らして決すべきである。)。
更に、本件第一ないし第三違反行為の程度及び原告の営業形態(予約客による収益がほとんどであり、原告側の事情による予約取消が原告の信用に与える影響は大きい。)に照らすと、原告に前示の処分歴があり、本件処分による教育的効果を勘案しても、本件処分のうち、平成五年三月一日から同月二三日までの間停止を命じる部分は重過ぎたものというべきである。
三 結論
以上の次第で、本件処分のうち、主文記載の部分は違法であるから取り消し、訴訟費用の負担について行訴法七条、民訴法八九条、九二条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 池田亮一 裁判官 吉波佳希 遠藤邦彦)